ひとりの夕飯が急にさみしかった|誰とも話さない夜の短い話

夜に読む短い話

夕飯は、いつも通りだった。

特別なものではない。

冷蔵庫にあったものを温めて、簡単に皿へ移した。

テーブルの上に置いて、箸を出して、スマホを横に置いた。

何も悪いことはなかった。

ちゃんとごはんもある。

部屋も静かで、誰にも邪魔されない。

それなのに、最初の一口を食べたあと、急にさみしくなった。

今日、誰かとちゃんと話しただろうか。

そんなことを、ふと思った。

テレビをつけるほどでもない

部屋の中は静かだった。

テレビをつけようかと思った。

でも、見たい番組があるわけではない。

音がほしいだけだった。

スマホで動画を流そうかとも思った。

でも、何を見たいのかもわからなかった。

ただ、無音の部屋で箸を動かしている自分が、少しだけ心細かった。

誰かの声があれば、もう少し普通に食べられる気がした。

でも、声がほしいと思っている自分にも、少し疲れた。

今日の会話を数える

今日、誰と話しただろう。

朝、コンビニで「お願いします」と言った。

職場で、短い確認をした。

帰りに、店員さんに「ありがとうございます」と言った。

それくらいだった。

会話と呼べるほどの会話は、あまりなかった。

誰かに今日あったことを話したわけでもない。

誰かの話をゆっくり聞いたわけでもない。

一日はちゃんと過ぎたのに、自分の声はあまり使われなかった気がした。

そのことに気づいたら、部屋の静けさが急に大きくなった。

ごはんの味が遠くなる

温めた夕飯は、別にまずくなかった。

いつもと同じ味だった。

でも、途中から少し味が遠くなった。

食べているのに、食べている感じが薄い。

目の前の皿を見ながら、別のことばかり考えていた。

誰かと食べたら、同じものでも少し違って感じるのかもしれない。

何でもない話をしながら食べたら、もっと早くなくなるのかもしれない。

そんなことを考えてしまった。

ひとりで食べることは嫌いではない。

でも、今夜は少しだけ、ひとりが濃かった。

スマホを見ても埋まらない

スマホを開いた。

誰かからの通知はなかった。

SNSを見れば、誰かの夕飯や、誰かの予定や、誰かの楽しそうな時間が流れてくる。

見れば気が紛れるかもしれない。

でも、今は見たら余計にさみしくなりそうだった。

私は画面を閉じた。

閉じると、また部屋が静かになった。

結局、スマホを見ても見なくても、さみしさはそこにあった。

誰かとつながりたいようで、でも誰かに連絡するほどの元気はない。

そんな中途半端な夜だった。

誰かに連絡しようとしてやめる

誰かにLINEを送ろうかと思った。

「今日なにしてた?」

「今ごはん食べてる。」

「なんかさみしい。」

そう送れたら、少し楽だったのかもしれない。

でも、実際に打とうとすると手が止まった。

急に送ったら変かもしれない。

相手も忙しいかもしれない。

さみしいと言われても困るかもしれない。

そう考えて、結局何も送れなかった。

誰かと話したいのに、自分から話しかけるのは怖い。

その矛盾が、少しだけ苦しかった。

皿を片づける音

夕飯を食べ終えて、皿を流しに運んだ。

水を出す音が、部屋に響いた。

皿を洗う音。

箸が当たる音。

蛇口を閉める音。

そういう生活の音があると、少しだけ落ち着いた。

誰かの声ではないけれど、自分がここで生活している音だった。

さみしさが消えたわけではない。

でも、何かを片づけると、少しだけ夜が進んだ気がした。

私はテーブルを拭いて、部屋の明かりを少し明るくした。

ひとりの夕飯の終わり

ひとりで食べる夕飯が、急にさみしくなる夜がある。

誰とも話さなかった一日を、食卓で思い出してしまう夜がある。

静かな部屋で、自分の箸の音だけが聞こえて、少し心細くなる夜がある。

でも、さみしいと感じる自分を責めなくてもいいのかもしれない。

ひとりが嫌いなわけではない。

ただ、今日は少し誰かの声がほしかった。

それだけのことかもしれない。

私は洗った皿を置いて、テーブルに戻った。

夕飯はもう終わっている。

部屋はまだ静かだった。

でも、さっきより少しだけ、自分のいる場所に戻ってきた気がした。

今夜は、さみしかった。

それをなかったことにしないまま、眠ってもいい。

そう思いながら、私は小さく息を吐いた。

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