眠ろうとして、部屋の電気を消した。
布団の中で目を閉じる。
今日あったことを少し思い返して、それから明日の予定を考えた。
特に大きな問題はなかった。
誰かに怒られたわけでもない。
失敗したわけでもない。
普通の一日だった。
それなのに、目を閉じてしばらくしたあと、急に昔のことを思い出した。
何年も前の、もう誰も覚えていないかもしれない出来事。
それなのに、私ははっきり覚えていた。
その瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
何の前触れもなく思い出す
本当に、何の前触れもなかった。
その日のことを考えていたわけではない。
誰かの名前を見たわけでもない。
似たような場面があったわけでもない。
ただ、眠る前の静かな時間に、急に頭の中に浮かんできた。
あのときの自分の言葉。
周りの空気。
少し止まった会話。
誰かの困ったような笑顔。
全部が、今起きたことみたいに戻ってきた。
忘れていたはずなのに。
もう終わったことのはずなのに。
体だけが、そのときの恥ずかしさを覚えていた。
なんであんなことを言ったんだろう
あのとき、どうしてあんなことを言ったんだろう。
もっと違う言い方があったはずだった。
黙っていればよかった。
笑って流せばよかった。
ちゃんと謝ればよかった。
今なら、いくらでも別の答えが浮かぶ。
でも、そのときの私は、それを選べなかった。
空気を読めなかったのかもしれない。
焦っていたのかもしれない。
自分をよく見せたかったのかもしれない。
理由を探しても、恥ずかしさはあまり薄くならなかった。
むしろ、考えるほどその場面が鮮明になっていった。
誰も覚えていないかもしれない
たぶん、周りの人はもう覚えていない。
そう思おうとした。
何年も前のことだし、誰にでもよくある小さな失敗だったのかもしれない。
相手にとっては、すぐに忘れるような一場面だったのかもしれない。
でも、自分だけが覚えている。
それが苦しかった。
誰も責めていないのに、自分だけがまだその場に残っている。
もう誰も見ていないのに、自分だけが昔の自分を見続けている。
忘れたいのに、思い出してしまう。
終わったことなのに、今の自分まで恥ずかしくなる。
布団の中で顔を覆う
私は布団の中で、顔を手で覆った。
声には出さなかったけれど、心の中で何度も言った。
やめて。
思い出したくない。
もういい。
でも、そう思うほど、その場面は戻ってきた。
相手の表情。
自分の声。
そのあとの沈黙。
帰り道に感じた気まずさ。
昔の出来事なのに、夜の静けさの中では、すぐ近くにあるみたいだった。
部屋は暗い。
誰もいない。
それなのに、過去の自分だけが目の前にいるようだった。
今ならうまくできるのに
今なら、もう少しうまくできると思う。
あんな言い方はしない。
もう少し相手の気持ちを考える。
変に取り繕わない。
必要ならすぐ謝る。
そう思えるくらいには、たぶん少し変わった。
でも、そのときの自分には、それができなかった。
できなかった自分を、今の自分が何度も責める。
どうしてできなかったの。
どうして気づかなかったの。
どうしてあんなふうにしてしまったの。
過去の自分を裁く声が、眠る前の頭の中で大きくなっていった。
それでも戻れない
どれだけ思い返しても、その場面には戻れない。
言い直すこともできない。
そのときの空気を変えることもできない。
相手の記憶から消すこともできない。
できるのは、今の布団の中で思い出して、苦しくなることだけだった。
そのことに気づいて、少し疲れた。
私は何年も前の出来事を、今夜もう一度やり直そうとしていたのかもしれない。
やり直せない場面を、頭の中で何度も巻き戻していたのかもしれない。
それは、とても疲れることだった。
あのときの自分も必死だった
少し時間がたってから、別の考えが浮かんだ。
あのときの自分も、たぶん必死だった。
うまくやろうとしていた。
嫌われたくなかった。
変に思われたくなかった。
その場をどうにかしようとしていた。
結果として、うまくいかなかっただけなのかもしれない。
恥ずかしいことをした自分。
失敗した自分。
空気を読めなかった自分。
そう決めつける前に、あのときの自分にも余裕がなかったのかもしれないと思った。
そう思っても、すぐに許せるわけではなかった。
でも、責める声がほんの少しだけ弱くなった。
昔の失敗を思い出した夜の終わり
昔の失敗を思い出して、急に恥ずかしくなる夜がある。
もう終わったことなのに。
誰も覚えていないかもしれないのに。
自分だけが何度も思い出して、心の中で赤くなる夜がある。
でも、その失敗を思い出せるのは、今の自分が少し変わったからかもしれない。
あのとき見えなかったことが、今は見えるようになったからかもしれない。
恥ずかしいと思えるくらい、何かを学んできたのかもしれない。
過去の自分をすぐに好きになれなくてもいい。
あの場面を無理に消そうとしなくてもいい。
ただ、今夜これ以上、そのときの自分を責め続けなくてもいいのかもしれない。
私は布団の中で、小さく息を吐いた。
昔の失敗は、まだ少し胸に残っている。
でも、今夜の自分までその場所に閉じ込めなくてもいい。
そう思いながら、目を閉じた。

