本当は、まっすぐ帰りたかった。
今日は朝から少し疲れていた。
人と話すことも、笑うことも、いつもより少しだけ重かった。
帰ったら早めにお風呂に入って、部屋を暗くして、何も考えずに休みたい。
そう思っていた。
でも帰り際に、
「このあと少しだけ行かない?」
と誘われた。
相手は悪気なく、明るく言った。
私は一瞬だけ迷った。
その一瞬で、もう断れない気がした。
「いいよ。」
そう答えたあとで、胸の奥が少し沈んだ。
断る理由を探していた
本当は、断る理由はあった。
疲れている。
今日は休みたい。
明日も早い。
家でやりたいことがある。
でも、それを言葉にしようとすると、どれも弱く感じた。
そんな理由で断っていいのかな。
付き合いが悪いと思われないかな。
せっかく誘ってくれたのに、冷たいかな。
そう考えると、言葉が出てこなかった。
相手は楽しそうにこちらを見ている。
その顔を見たら、断るより合わせる方が簡単に思えた。
少しだけなら大丈夫だと思った
少しだけなら大丈夫。
一時間くらいなら大丈夫。
行けば楽しくなるかもしれない。
そう自分に言い聞かせた。
実際、行ってしまえば何とかなることも多い。
笑えばいい。
相づちを打てばいい。
疲れていることを顔に出さなければいい。
そう思った。
でも、その時点でもう少し無理をしていた。
自分の本音を、小さく折りたたんでバッグの奥にしまったような感じだった。
会っている間は笑っていた
お店では、普通に話した。
相手の話を聞いて、笑って、料理の感想も言った。
話が途切れないように、質問もした。
楽しくなかったわけではない。
相手が嫌だったわけでもない。
でも、体のどこかはずっと帰りたがっていた。
椅子に座りながら、心だけが少し遅れてついてきているようだった。
時計を見ないようにした。
でも、時間が気になった。
まだ帰れないかな。
そう思っている自分に、少し罪悪感があった。
帰り道で疲れが出る
別れてひとりになった瞬間、どっと疲れが出た。
駅までの道を歩きながら、肩の力が抜けた。
さっきまで笑っていた顔が、急に真顔に戻った。
楽しかった部分もあった。
でも、疲れた。
その両方が本当だった。
誘いを断れなかった自分を責めたい気持ちもあった。
でも、断るのが怖かった自分のことも、少しわかっていた。
嫌われたくなかった。
ノリが悪いと思われたくなかった。
もう誘われなくなるのが怖かった。
だから、帰りたい気持ちより、相手に合わせることを選んだ。
家に着いても休めない
家に着いた。
靴を脱いで、バッグを置いた。
本当なら、ここからやっと休めるはずだった。
でも、頭の中ではまだ反省会が始まっていた。
今日、無理しているのが伝わっていなかったかな。
途中で帰りたそうに見えなかったかな。
ちゃんと楽しそうにできていたかな。
断れなかったことだけでなく、行ったあとの自分まで気になっていた。
休みたかったから断れなかった。
断れなかったから疲れた。
疲れたのに、また考えている。
その繰り返しだった。
自分の時間を後回しにした
お風呂に入る時間は遅くなった。
やろうと思っていたこともできなかった。
寝る時間も少し遅くなりそうだった。
それは、大きな損ではないのかもしれない。
でも、自分のために空けていた時間を、また誰かに渡してしまったような気がした。
誰かと過ごす時間が嫌なわけではない。
誘われることが嫌なわけでもない。
ただ、本当は休みたい日もある。
その気持ちを、自分でちゃんと扱えなかったことが苦しかった。
次は少しだけ言えたらいい
その夜、私は布団の中で考えた。
次に同じように誘われたら、どう言えばいいだろう。
「今日はちょっと疲れてるから、また今度でもいい?」
「行きたいけど、今日は休むね。」
「誘ってくれてありがとう。今日は帰るね。」
頭の中でなら言える。
実際にその場で言えるかは、まだわからない。
でも、言葉を用意しておくことくらいはできるかもしれない。
断ることは、相手を拒絶することではない。
自分の体力を守ることでもある。
そう思いたかった。
誘いを断れなかった帰り道の終わり
誘いを断れなかった帰り道がある。
本当は休みたかったのに、笑って「行く」と言ってしまう日がある。
人に合わせすぎて、帰ってからどっと疲れる夜がある。
それは、相手が嫌いだからではない。
関係を大切にしたかったから。
空気を壊したくなかったから。
嫌われたくなかったから。
でも、自分の疲れも、関係の中にあっていい。
休みたい日があることを、なかったことにしなくてもいい。
すぐに上手に断れなくてもいい。
次は少しだけ、自分の予定も予定として扱えたらいい。
私は部屋の明かりを落として、スマホを遠くに置いた。
今日は断れなかった。
でも、断りたかった自分の気持ちまでは、消さないでおこうと思った。

