私だけ知らなかった予定|みんなの話についていけなかった短い話

夜に読む短い話

昼休みの休憩室で、みんなが週末の話をしていた。

新しくできたお店の名前。

集合時間。

誰が予約をしたのか。

誰が遅れて来たのか。

写真を撮った場所。

私は最初、何の話をしているのかわからなかった。

でも、みんなの会話を聞いているうちに、少しずつわかってきた。

週末、みんなで出かけていたらしい。

その予定を、私は知らなかった。

知らない話が続いていく

「駅前のあのお店、思ったより混んでたよね。」

「でも料理おいしかった。」

「次はもう少し早い時間にしよう。」

そんな会話が、目の前で自然に続いていく。

みんなは同じ時間を共有していた。

同じ場所にいて、同じものを見て、同じ話で笑っている。

私はその話を聞きながら、ただ笑っていた。

知らなかったことを悟られたくなくて、曖昧にうなずいた。

話についていけているふりをした。

でも、会話の中に自分の記憶はひとつもなかった。

たまたまかもしれない

たまたまだと思おうとした。

急に決まったのかもしれない。

人数の都合があったのかもしれない。

私が忙しそうに見えたのかもしれない。

声をかけるほどの集まりではなかったのかもしれない。

そうやって、理由をいくつも考えた。

でも、考えるほど胸の奥が重くなった。

だって、みんなは知っていた。

その場にいる人たちは、当たり前みたいに知っていた。

知らなかったのは、たぶん私だけだった。

笑うタイミングがわからない

誰かが、その日の出来事を面白そうに話した。

みんなが笑った。

私も少し遅れて笑った。

でも、何がそんなに面白いのか、本当にはわからなかった。

その場にいなかったから。

その空気を知らなかったから。

笑いながら、自分だけが輪の外側にいるような気がした。

会話の中にいるのに、会話の中に入れていない。

そんな感じだった。

誰も私を責めていない。

誰も私に冷たい言葉を言っていない。

それなのに、そこにいることが少し苦しかった。

昨日のことまで違って見えた

その予定を知らなかったとわかった瞬間、昨日までのことまで違って見え始めた。

昨日、返信が少し遅かったこと。

この前、会話が途中で終わったこと。

昼休みに、席が少し離れていたこと。

私が知らないところで、別の話が進んでいたこと。

ひとつひとつは、別に大したことではなかったはずだった。

でも、その日は全部がつながって見えた。

もしかして、私は少しずつ外されていたのかもしれない。

そんな考えが浮かんで、すぐに苦しくなった。

聞けばよかったのかもしれない

「それ、いつ行ったの?」

「私、知らなかった。」

そう言えばよかったのかもしれない。

明るく聞けば、何でもない会話になったのかもしれない。

でも、その場では言えなかった。

言った瞬間、空気が止まる気がした。

気まずくなる気がした。

誰かに気を使わせてしまう気がした。

「ごめん、声かければよかったね。」

そう言われるのが怖かった。

それは優しい言葉かもしれない。

でも、自分だけ声をかけられていなかったことが、もっとはっきりしてしまう気がした。

だから私は、知らなかったことを隠したまま笑っていた。

帰ってから思い出す

家に帰ってからも、休憩室の会話を思い出していた。

新しくできたお店の名前。

みんなの笑い声。

自分だけ少し遅れて笑ったこと。

知らない話にうなずいていたこと。

その場では普通にしていたつもりだった。

でも、帰ってひとりになると、胸の奥がじわじわ痛くなった。

私だけ知らなかった。

その言葉が、何度も頭の中で繰り返された。

ただ予定を知らなかっただけ。

そう思おうとしても、その「だけ」が今日は大きかった。

本当は混ざりたかった

私は、その予定に絶対行きたかったわけではないのかもしれない。

そのお店に特別行きたかったわけでもない。

でも、声をかけてもらいたかった。

自分も選択肢の中に入っていたかった。

行くか行かないかを、自分で決めたかった。

知らないまま終わっていたことが悲しかった。

みんなの輪の中に、自分の場所も少しはあると思いたかった。

その気持ちに気づいたら、少し泣きそうになった。

予定そのものより、「知らされなかったこと」が苦しかった。

私だけ知らなかった予定の終わり

その夜、答えは出なかった。

本当に外されたのか。

たまたまだったのか。

事情があったのか。

私が気にしすぎなのか。

どれも、はっきりとはわからなかった。

でも、今夜の気持ちまで否定しなくてもいいのかもしれない。

知らなかったことが悲しかった。

会話の輪の外にいるようでさみしかった。

自分も混ざれる場所がほしかった。

それは、気にしすぎの一言で片づけなくてもいい気持ちだった。

ただ、その予定を知らなかった一日だけで、私の居場所が全部なくなったわけではない。

今夜の不安だけで、関係の全部を決めなくてもいい。

私はスマホを伏せて、部屋の電気を少し暗くした。

明日、また普通に挨拶できたらいい。

それくらいの小さな続きだけを残して、眠ることにした。

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