土曜日の夜、何気なくSNSを開いた。
最初に流れてきたのは、見慣れた顔が並んだ写真だった。
職場でよく話す人たち。
この前まで一緒にお昼を食べていた人。
グループLINEで何度もやり取りしていた人。
みんなが、見慣れないお店で笑っていた。
楽しそうだった。
本当に、楽しそうだった。
私は画面を見たまま、少しだけ動けなくなった。
その予定を、私は知らなかった。
たまたまかもしれない
最初に思ったのは、たまたまかもしれない、ということだった。
急に決まったのかもしれない。
人数の都合があったのかもしれない。
私が忙しそうに見えたのかもしれない。
誘うほどの集まりではなかったのかもしれない。
そう考えようとした。
でも、写真の中のみんなは、ちゃんと集まっていた。
ちゃんと予定を合わせて、ちゃんとそこにいた。
私は、その場所にいなかった。
知らなかった。
それだけのことなのに、胸の奥が静かに重くなった。
みんなの笑顔を拡大した
写真を閉じればよかった。
見なければよかった。
それなのに、私はもう一度その投稿を開いた。
誰がいるのか、ひとりずつ確認してしまった。
あの人もいる。
この人もいる。
この前、「またみんなで行きたいね」と言っていた人もいる。
私もその場にいたはずだった。
その言葉を聞いて、普通に笑っていたはずだった。
でも、今日の写真の中に私はいない。
スマホの画面を指で少し拡大した。
みんなの顔が近くなった。
楽しそうな表情が、余計にはっきり見えた。
見れば見るほど、自分だけが外側にいるような気がした。
昨日の会話まで違って見えた
その日だけのことなら、まだよかったのかもしれない。
でも、不安はすぐに別の日の出来事まで連れてきた。
昨日、返事が少し短かったこと。
昼休みに、会話の輪に入れなかったこと。
前に送ったLINEの返信が遅かったこと。
あのとき、目が合わなかったこと。
ひとつひとつは、別々のことだったはずなのに。
その夜は、全部が同じ答えにつながって見えた。
「私だけ、誘われなかった。」
「私だけ、知らなかった。」
「私だけ、少し距離を置かれているのかもしれない。」
そう思うと、今まで普通だった会話まで、急に不安なものに変わっていった。
悪口を言われたわけじゃない
誰かに冷たいことを言われたわけではない。
はっきり仲間外れにされたわけでもない。
「来ないで」と言われたわけでもない。
ただ、知らなかっただけ。
ただ、その場所にいなかっただけ。
でも、その「だけ」が苦しかった。
もし誰かに話したら、
「気にしすぎだよ。」
と言われるかもしれない。
「たまたまでしょ。」
と言われるかもしれない。
自分でも、そう思いたかった。
でも、心はそんなに簡単に切り替わらなかった。
知らなかったという事実だけが、何度も胸の中に戻ってきた。
返信を考えた
投稿には、もう何人かがコメントしていた。
「楽しかったね。」
「また行こう。」
「次はあそこも行きたい。」
私は、その文字を見ながら、何か反応した方がいいのか考えた。
いいねを押すべきなのか。
コメントするべきなのか。
何も見なかったふりをするべきなのか。
いいねを押したら、気にしていないふりができるかもしれない。
でも、本当は気にしている。
コメントしたら、痛々しく見えるかもしれない。
何もしなければ、余計に距離ができるかもしれない。
たったひとつの反応を決めるだけなのに、頭の中が疲れていった。
結局、私は何も押さずに画面を閉じた。
静かな部屋に戻る
画面を閉じると、部屋は急に静かになった。
さっきまで写真の中には声があった気がした。
笑い声。
グラスの音。
店内の明るさ。
そこから一気に、自分の部屋に戻ってきた。
テーブルの上には、飲みかけのお茶があった。
洗濯物が、まだたたまれずに置いてあった。
土曜日の夜なのに、部屋の中には自分ひとりだった。
誰にも責められていない。
でも、勝手に責められているような気がした。
「私は、いてもいなくてもいい人なのかもしれない。」
そんな考えが浮かんで、自分でも驚いた。
そこまで思う必要はない。
そうわかっているのに、思ってしまった。
たぶん、さみしかった
嫌われたと決まったわけじゃない。
外されたと決まったわけでもない。
たまたまだったかもしれない。
事情があったのかもしれない。
でも、それとは別に、私はさみしかった。
知らなかったことが悲しかった。
その場所にいたかったと思ってしまった。
自分も声をかけてもらえる人でいたかった。
それだけだったのかもしれない。
「気にしすぎ」と片づけるには、少しだけ痛かった。
私はもう一度スマホを手に取った。
でも、SNSは開かなかった。
代わりに、部屋の電気を少し明るくした。
誘われなかった土曜日の終わり
その夜、答えは出なかった。
なぜ誘われなかったのか。
本当に避けられているのか。
自分が気にしすぎなのか。
どれも、はっきりとはわからなかった。
でも、ひとつだけわかったことがある。
私は、そこにいたかった。
みんなと同じ場所で笑っていたかった。
知らなかったことが、ただ悲しかった。
そう思う自分まで責めなくてもいいのかもしれない。
誘われなかった土曜日。
知らなかった予定。
画面の中の笑顔。
その全部が苦しく見える夜があっても、まだ何も決まったわけではない。
今夜の不安だけで、自分の居場所を全部決めなくてもいい。
私はスマホを伏せて、少しだけ深く息を吐いた。

