本当は、行きたくなかったわけではない。
でも、その日はどうしても疲れていた。
朝からずっと気を張っていて、帰ったら少し休みたかった。
だから、誘いのLINEを見たとき、すぐには返せなかった。
行けると言えば、たぶん行けた。
でも、行ったらもっと疲れる気がした。
無理して笑って、帰ってからぐったりする自分が想像できた。
私は何度も文章を打ち直して、やっと送った。
「ごめん、今日はやめておくね。」
送った瞬間、少しだけほっとした。
でも、そのあとすぐに、不安になった。
断るまでが長かった
誘われたとき、最初に思ったのは「どう断ろう」だった。
本当は、その時点で答えは決まっていたのかもしれない。
今日は休みたい。
家にいたい。
誰かと会う余裕がない。
でも、そのまま言うのは怖かった。
冷たいと思われるかもしれない。
ノリが悪いと思われるかもしれない。
もう誘われなくなるかもしれない。
そう考えると、断る文章がどんどん長くなった。
「行きたいんだけど」
「本当にごめん」
「また誘って」
何を足せば嫌な感じにならないか、何度も考えた。
送ったあとで読み返す
送信したあと、すぐに自分の文章を読み返した。
ごめん、今日はやめておくね。
少し冷たかったかもしれない。
今日は難しい、の方がよかったかもしれない。
理由をもっと書けばよかったかもしれない。
疲れていると書いたら、相手に気を使わせただろうか。
逆に、理由を書かなかったから、避けているみたいに見えただろうか。
断る前にあれだけ考えたのに、送ったあとでまた考えていた。
断ったのは自分なのに、断ったあとの空気が怖かった。
返信を待つ時間
相手からの返信は、すぐには来なかった。
ほんの数分だったと思う。
でも、その数分が長かった。
怒ったのかもしれない。
がっかりしたのかもしれない。
もう誘わないと思われたかもしれない。
そんな考えが浮かんだ。
ただ予定を断っただけなのに、関係まで変わってしまうような気がした。
スマホを伏せても、気になってまた見てしまう。
通知が来るたびに、少し緊張した。
待っているのは、返事というより、許された証拠だったのかもしれない。
返ってきた言葉
しばらくして、返信が来た。
「全然大丈夫!また今度ね」
その文章を見て、少しだけ安心した。
怒っていないように見えた。
明るく返してくれているように見えた。
でも、完全には安心できなかった。
本当はがっかりしているかもしれない。
無理して明るく返しているだけかもしれない。
「また今度」と言っているけれど、本当にまた誘ってくれるだろうか。
相手が優しく返してくれても、私はその優しさの裏を探してしまっていた。
断ったのに休めない
私は予定を断った。
休むために断った。
それなのに、全然休めなかった。
相手の返信を何度も読み返した。
言葉の温度を確かめた。
絵文字がないことまで気になった。
いつもより短い気がした。
本当に大丈夫だったのかな。
そう考え続けていたら、断ったはずの時間が不安で埋まっていった。
今日は休みたかっただけなのに。
休むために選んだはずなのに。
断ったあとも、頭の中ではずっと相手の反応を見ていた。
いい人でいたかった
どうしてこんなに気になるのだろう。
そう考えて、少しだけわかった気がした。
私はたぶん、いい人でいたかった。
誘われたら喜んで行く人。
断っても感じがいい人。
相手を傷つけない人。
面倒だと思われない人。
そう見られたかった。
だから、断るだけでこんなに疲れるのかもしれない。
予定を断ることが、相手を拒絶することのように感じてしまう。
でも、本当は違うのかもしれない。
今日は休みたい。
それは、相手を嫌いだからではなかった。
自分の予定も予定だった
部屋でひとり、カップに温かい飲み物を入れた。
湯気を見ながら、ふと思った。
今日は休む予定だった。
誰かと会う予定ではないけれど、休む予定があった。
部屋で静かに過ごすこと。
早めにお風呂に入ること。
何も考えずに眠ること。
それも、自分にとってはちゃんとした予定だったのかもしれない。
誰かとの約束だけが、大切な予定ではない。
自分を休ませる時間も、守っていい予定なのかもしれない。
そう思うと、少しだけ胸の重さがゆるんだ。
予定を断ったあとの夜
その夜、相手の返信をもう一度だけ見た。
「全然大丈夫!また今度ね」
私はその言葉を、今度は少しだけそのまま受け取ることにした。
本当の気持ちは、完全にはわからない。
でも、相手は大丈夫と言ってくれた。
今わかっていることは、それだけだった。
私はスマホを机に置いて、飲み物を少し飲んだ。
予定を断ったあとで不安になる夜がある。
嫌われたかもしれないと考えて、せっかく空けた時間まで苦しくなる夜がある。
でも、断ることは、相手を嫌いになることではない。
休みたい日があることも、無理をしないことも、人との関係の中にあっていい。
今日は、行かなかった。
でも、相手を大切にしていないわけではない。
そして、自分を休ませたいと思ったことも、悪いことではない。
私は部屋の明かりを少し落として、ゆっくり息を吐いた。
今夜は、断った自分を責めるより、休むことを選んだ自分を少しだけ許したかった。

