夕方になって、部屋の中が少しずつ暗くなっていった。
窓の外は、まだ完全な夜ではない。
でも、昼間の明るさはもう残っていなかった。
カーテンの向こうの空が、薄い灰色に変わっていく。
私はソファに座ったまま、しばらく動かなかった。
電気をつければいいだけだった。
リモコンはすぐ横にある。
立ち上がる必要もない。
それなのに、なぜかそのまま暗くなっていく部屋を見ていた。
今日、私は何をしていたんだろう。
そんな言葉が、夕方の部屋にゆっくり浮かんできた。
何もない休日だった
今日は、何も予定がなかった。
誰かに会う約束もない。
行かなければいけない場所もない。
朝は、それが少しうれしかった。
ゆっくり眠れる。
好きな時間に起きられる。
何もしなくてもいい。
そう思っていたはずだった。
実際、朝は悪くなかった。
洗濯機を回して、簡単にごはんを食べて、少しだけ部屋を片づけた。
そのあと、スマホを見ていた。
動画を見て、記事を読んで、また動画に戻った。
気づいたら、昼を過ぎていた。
そして今、夕方になっていた。
休んでいたはずなのに
今日は休む日だった。
そう決めていたはずなのに、夕方になると急に不安になった。
休めた感じがしなかった。
かといって、何かを頑張った感じもなかった。
ただ時間だけが過ぎていた。
そんな気がした。
何もしない日を作ったのに、何もしなかった自分を責めている。
そのことに気づいて、少しだけ嫌になった。
休むことすら、うまくできないのかもしれない。
そう思いかけて、胸のあたりが重くなった。
SNSを開かなければよかった
スマホを開くと、誰かの休日が流れてきた。
友達と出かけた人。
おしゃれなカフェに行った人。
夕方の空をきれいに撮っている人。
買ったものを並べている人。
みんな、ちゃんと休日を使っているように見えた。
私は、今日の自分の写真を撮るとしたら何を撮るだろう。
飲みかけのコップ。
たたんでいない洗濯物。
少し散らかったテーブル。
暗くなりかけた部屋。
それも、自分の休日だった。
でも、画面の中の休日と比べると、少しだけみすぼらしく見えた。
比べるつもりはなかった。
ただ見ただけだった。
それなのに、見たあとで自分の部屋が急にさみしくなった。
電気をつけないまま
部屋はどんどん暗くなっていった。
それでも私は、しばらく電気をつけなかった。
暗い部屋の中でスマホだけが明るかった。
その明るさが、少しだけ心細かった。
外から帰ってきた誰かの足音が、廊下の方から聞こえた。
隣の部屋のドアが開く音がした。
どこかの家から、夕飯の匂いが少しだけした気がした。
みんなの生活が、少しずつ夜に向かって整っていく。
それなのに、自分の部屋だけが取り残されているように感じた。
本当は、そんなことはない。
ただ電気をつけていないだけ。
ただ夕方になっただけ。
でも、その「だけ」が、今日は少し苦しかった。
何かしなきゃと思う
急に、何かしなきゃと思った。
今からでも掃除をした方がいい。
明日の準備をした方がいい。
買い物に行った方がいい。
誰かに連絡した方がいい。
そう思うのに、体は動かなかった。
やることを考えるほど、逆に動けなくなった。
何をすれば、この一日を取り戻せるのかわからなかった。
今日がもうすぐ終わってしまう。
その焦りだけが大きくなった。
でも、本当は取り戻すような失敗をしたわけではない。
ただ、予定のない休日を過ごしただけだった。
部屋の電気をつけた
ようやく、リモコンに手を伸ばした。
ボタンを押すと、部屋の電気がついた。
それだけで、部屋の見え方が少し変わった。
テーブルの上のコップ。
床に置いたままのバッグ。
ソファにかけた服。
全部、さっきまでと同じものだった。
でも、暗い中で見ていたときよりは、少しだけ普通に見えた。
私は立ち上がって、コップを流しに持っていった。
ついでに、洗濯物を少しだけたたんだ。
全部はできなかった。
でも、少しだけ部屋の中が動いた。
それだけで、止まっていた時間が少し進んだ気がした。
今日を数え直す
何もしていないと思っていた。
でも、よく考えると、本当に何もしていなかったわけではなかった。
朝、起きた。
洗濯をした。
ごはんを食べた。
少し片づけた。
休んだ。
暗くなった部屋に気づいた。
電気をつけた。
コップを片づけた。
それだけでも、今日の中にちゃんとあった。
誰かに見せるような一日ではなかった。
写真に残すような出来事もなかった。
でも、まったく空っぽだったわけではない。
そう思うと、少しだけ呼吸がしやすくなった。
休日の夕方の終わり
夜になった。
部屋の電気はついたままだった。
外はもう暗くて、窓には部屋の中が少し映っていた。
私は明日の準備をほんの少しだけして、スマホを机に置いた。
今日を上手に使えたとは思えない。
でも、失敗だったと決めなくてもいいのかもしれない。
予定がない日。
誰にも会わなかった日。
何かを成し遂げたわけではない日。
そういう日にも、自分の時間はちゃんと流れていた。
休日の夕方、部屋の電気をつけた。
ただそれだけのことだった。
でも、暗くなっていく部屋の中で、自分を少しだけ戻してあげた気がした。
何もできなかった日ではなくて、少しだけ休んだ日。
そう呼んでもいいことにした。

