会話の輪の外にいた日|私だけ浮いている気がする短い話

夜に読む短い話

みんなが話している輪の中に、私は一応いた。

同じテーブルに座っていた。

同じ飲み物を持っていた。

同じ話を聞いていた。

でも、なぜか少しだけ外側にいる気がした。

誰かが冗談を言って、みんなが笑う。

私も笑う。

でも、少し遅れる。

誰かが前にあった出来事を話して、みんなが「あれね」とうなずく。

私はその「あれ」を知らない。

知らないまま、知っているふりをして笑った。

その瞬間、自分だけ空気の中にうまく混ざれていないような気がした。

話の入り口が見つからない

会話は、途切れずに続いていた。

仕事の話。

最近見た動画の話。

前に行ったお店の話。

誰かの口から出た言葉に、別の誰かがすぐ返す。

その流れは自然で、楽しそうだった。

私も何か言いたかった。

でも、どこで入ればいいのかわからなかった。

今入ったら急かもしれない。

話題を変えたら変かもしれない。

私が言わなくても、この会話はちゃんと進んでいる。

そう思うと、言葉が喉の手前で止まった。

笑っているのに遠い

みんなが笑うたびに、私も笑った。

笑っていれば、そこにいるように見える気がした。

楽しんでいるように見える気がした。

でも、笑いながら少しだけ遠かった。

何がそんなに面白かったのか、少し遅れて理解する。

その場の空気に追いつこうとして、表情だけを先に合わせる。

笑っているのに、心の中では焦っていた。

ちゃんと混ざれているかな。

変に見えていないかな。

無理しているのが伝わっていないかな。

笑顔の裏で、そんなことばかり考えていた。

私だけ知らない話

途中で、みんなが前の集まりの話を始めた。

「あのときさ」

「そうそう、あれ本当に面白かった」

「また行きたいね」

その言葉だけで、私の知らない時間がそこにあったことがわかった。

誰も悪くない。

私を責めている人もいない。

ただ、みんなには共有している記憶があって、私にはそれがなかった。

その差が、少しだけ痛かった。

知らない話を聞きながら、私は何度も小さくうなずいた。

「そうなんだ」と言うタイミングも逃して、ただ笑った。

笑っているうちに、自分がどんどん薄くなっていくような気がした。

いるのに、いないみたいだった

同じ場所にいる。

声も聞こえている。

目の前に人もいる。

それなのに、少しだけ自分がいないみたいだった。

話しかけられれば答えられる。

でも、話しかけられないと、そこにいる理由がわからなくなる。

自分から話せばいいのに。

そう思う。

でも、自分の言葉を差し込む勇気が出なかった。

会話の中に空席はなさそうに見えた。

私が入らなくても、みんなは楽しそうだった。

そのことが、寂しかった。

帰り道で思い返す

帰り道、電車の窓に自分の顔が映っていた。

少し疲れて見えた。

今日、私はちゃんとそこにいられただろうか。

浮いていなかっただろうか。

変に静かだと思われなかっただろうか。

頭の中で、今日の場面を何度も巻き戻した。

あのとき、何か言えばよかった。

あの話題で、私も少し話せたかもしれない。

笑うだけじゃなくて、質問すればよかった。

そうやって、帰ってからならいくらでも言葉が出てくる。

でも、その場では何も言えなかった。

家に着いてから静かになる

家に着くと、部屋は静かだった。

外で聞いていた笑い声が、急に遠くなった。

バッグを置いて、手を洗って、上着を脱いだ。

何も悪いことは起きていない。

誰かに嫌なことを言われたわけでもない。

でも、心の中には小さな疲れが残っていた。

会話に入れなかった疲れ。

笑うタイミングを探していた疲れ。

浮いていないか気にしていた疲れ。

人といたのに、少し寂しかった疲れ。

私はソファに座って、しばらく何もできなかった。

本当は混ざりたかった

本当は、みんなのことが嫌だったわけじゃない。

その場が嫌だったわけでもない。

むしろ、混ざりたかった。

自然に話したかった。

誰かの言葉に、すぐ返せる人でいたかった。

自分の話も、気軽に出せる人でいたかった。

でも、うまくできなかった。

それだけだった。

浮いている気がしたのは、誰かに外されたからではなく、自分の中で居場所を見失っていたからかもしれない。

そう思っても、今日の寂しさがすぐ消えるわけではなかった。

会話の輪の外にいた日の終わり

その夜、私は今日の自分を何度も責めそうになった。

もっと話せばよかった。

もっと笑えばよかった。

もっと自然にいられたらよかった。

でも、少しだけ考え直した。

会話に入れなかったからといって、そこにいてはいけなかったわけではない。

静かだったからといって、嫌われたと決まったわけでもない。

少し浮いているように感じた日があっても、それで自分の居場所が全部なくなるわけではない。

今日は、うまく混ざれなかった。

それだけの夜にしてもいいのかもしれない。

私はスマホを置いて、部屋の明かりを少し落とした。

明日また、普通に挨拶できたらいい。

今日より少しだけ、自分の言葉を出せたらいい。

それくらいの小さな続きだけを残して、眠ることにした。

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