目が覚めたら、部屋の中が暗かった。
カーテンの隙間から、外の光が少しだけ入っていた。
スマホを見ると、午前2時を少し過ぎていた。
中途半端な時間だった。
朝には遠くて、夜には深すぎる時間。
喉が渇いて、台所まで行こうと思った。
でも、ドアを開けた先の廊下が、妙に暗く見えた。
昼間は何度も通る場所なのに。
夜中だけは、違う場所みたいだった。
スイッチまでの数歩
電気をつければいいだけだった。
廊下のスイッチは、ドアを出てすぐ横にある。
手を伸ばせば届く。
それなのに、その数歩が遠く感じた。
部屋の中から廊下を見ていると、奥の方がぼんやり暗かった。
台所まで続く短い廊下。
何もないとわかっている。
昨日も、今日の昼も、何度も通った場所。
それでも今は、そこだけ空気が濃いように見えた。
ドアノブを握ったまま、少しだけ動けなかった。
音が大きく聞こえる
冷蔵庫の低い音が、台所の方から聞こえた。
いつも鳴っている音なのに、夜中だけは少し違って聞こえる。
外を車が通る音もした。
遠くの方で、何かがきしむような音もした。
たぶん、建物の音。
たぶん、風の音。
そう思おうとしても、耳は勝手に音の正体を探してしまう。
部屋の中にいるときは気にならなかった音が、ドアを開けた瞬間に近くなった気がした。
廊下に出たら、その音の中に入ってしまうような気がした。
後ろを見たくなる
廊下が怖いのに、なぜか後ろも気になった。
部屋の中には誰もいない。
もちろん、誰もいない。
それなのに、後ろに背を向けて廊下へ出るのが怖かった。
見えない場所があると、そこに何かがあるような気がしてしまう。
確認したい。
でも、確認するのも怖い。
振り向いて何もなければ安心するはずなのに、振り向く直前がいちばん怖い。
私は、部屋の明かりをつけたまま、廊下のスイッチに手を伸ばした。
指先が少し冷たかった。
明かりがついた
スイッチを押すと、廊下の電気がついた。
白い光が、いつもの壁と床を照らした。
そこには何もなかった。
当たり前のように、何もなかった。
昼間と同じ廊下だった。
でも、明かりがついたあとも、心臓はまだ少し早く動いていた。
怖かったのは、何かがいたからではなかったのかもしれない。
見えなかったから。
静かすぎたから。
自分だけが起きているように感じたから。
そう思っても、さっきまで怖かった気持ちがすぐに消えるわけではなかった。
台所まで歩く
廊下を歩いて台所へ行った。
床が少し冷たかった。
冷蔵庫の音は、近づくとただの冷蔵庫の音だった。
蛇口をひねって、コップに水を入れる。
水を飲むと、思っていたより喉が渇いていたことに気づいた。
ただ水を飲みに来ただけ。
それだけのことだった。
でも、夜中の廊下を歩くには、少しだけ勇気が必要だった。
誰かに話すほどのことではない。
でも、自分の中では、ちゃんと怖かった。
戻る廊下
水を飲み終えて、部屋に戻ろうとした。
明かりのついた廊下は、もうさっきほど怖くなかった。
でも、部屋に戻ったあと、また電気を消すことを考えると少し迷った。
暗くなれば、また同じ廊下に戻る。
明るいときには何もない場所が、暗くなるだけで違って見える。
そのことを、もう知ってしまっている。
私は部屋の前まで戻って、しばらく廊下の電気をつけたままにした。
少しだけ、明かりを借りていたかった。
夜中2時の終わり
部屋に戻って、布団に入った。
廊下の電気は、少しだけつけたままにした。
ドアの下から細く光が入っている。
それだけで、部屋の暗さが少しやわらいだ。
怖さが全部消えたわけではない。
でも、さっきよりは呼吸がしやすかった。
夜中2時の廊下。
暗いだけの通路。
何もなかった場所。
それでも、怖いと感じた自分を責めなくてもいいのかもしれない。
怖さは、見えない場所に心が反応しているだけのこともある。
今夜は、明かりを少し残したまま眠ってもいい。
そう思って、私は目を閉じた。

